ホスチアゼートの目標値緩和での偽情報に注意!「水道水の農薬類の目標値等の改正案(概要)について」
水道水に農薬が入るって?何故そのような偽情報が拡散している?
水道水に農薬が入る?
という「世間を混乱させる」情報が出回っているみたいです。
この情報をもっともらしくさせているのには、出典元の厚生労働省のページを引用しているからかもしれません。
水道水の農薬類の目標値等の改正案(概要)について
改正の概要
局長通知の別添2について、以下のとおり見直しを行う。
(1)内閣府食品安全委員会による食品健康影響評価の結果に基づき、「ホスチアゼート」の目標値を、現行の「0.003mg/L」から「0.005mg/L」に改める。
(2)厚生労働科学研究の成果に基づき、要検討農薬類である「イプフェンカルバゾン」を対象農薬リスト掲載農薬類へ分類を変更し、目標値を「0.002mg/L」とする。
(3)厚生労働科学研究を踏まえ、「メチダチオン」について、新たにオキソン体も検査の対象とし、原体の濃度に、オキソン体を原体の濃度に換算したものを合算してメチダチオンの濃度とする。
適用期日
適用期日:令和4年4月1日
嘘の情報1
・水道水に農薬が入る、水道水に農薬を入れる
・水道水には農薬などは一切添加しない。
・水道水にホスチアゼートが入っていないか調べて公表する値が変更になった。
水道水を作る浄水場で添加する薬品は主に下の「3つまたは4つ」です。
薬品1 凝集剤PAC(ポリ塩化アルミニウム)
→濁り成分を除去する薬品
薬品2 消石灰
→凝集剤PACを加えると、水はpHが酸性になるため、消石灰などのアルカリ性の薬品を加えないといけません。
薬品3 消毒剤
残留塩素の元は、浄水場で細菌の消毒用に注入しているNaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)という薬品です。
残留塩素がどこの水道の蛇口でも0.1mg/L以上確保されていることが衛生上の観点から厚生労働省で定めています。
水道水を作っている浄水場が嫌がらせで注入しているわけではなくて、日本の水道の決まり事で、『菌』による健康影響を考慮して入れています。
残留塩素は時間の経過や水温が高いほど減少しやすい性質があります。
また、水質によっては、フミン質といった残留塩素を消費しやすい物質が季節変動によって多く含まれる場合もあります。
遊離残留塩素(残留塩素)
『カルキ臭い』といわれる原因物質です。
残留塩素は殺菌効果の保証としての意義が大きいのですが、多すぎると塩素臭が強くなり、金属などの腐食性を増します。
また、水中のフミン質などと反応してトリハロメタン等を生成します。
塩素の消毒作用
塩素には強力な殺菌作用があります。
残留塩素がどこの水道の蛇口でも0.1mg/L以上確保されていることが衛生上の観点から水道法で定められています。
これは、浄水場から水道水が送り出されたあとに、送水管や配水池で細菌が混入した場合でも、殺菌作用がなくならないようにするためです。
塩素以外のオゾンや紫外線を使用した殺菌は、その場限りのもので、持続した殺菌作用はありません。
そのため、これらの消毒だけでは浄水場を出たあと配水管などで細菌が混入した場合、殺菌されないままの水を飲むことになってしまいます。
その点、塩素には持続した殺菌作用があるので、万が一、細菌が混入した場合でも大丈夫なようになっています。
日本で塩素消毒を使用しているのは何故?いつから?
日本での塩素消毒は、1921年(大正10年)に東京と大阪で始まりました。
今から、およそ100年前ということになります。
これにより、当時流行していたコレラや赤痢、腸チフスなどの水が原因となる伝染病を防止することができるようになりました。
コレラは、昔は相当怖い病気で「コロリ」などとも呼ばれていたみたいです。
TBSドラマの「JIN−仁−」を見た方なら、幕末期の人がコレラをいかに恐れていたかわかると思います。
大沢たかおさんや綾瀬はるかさんが出演されていたドラマです。
日本で水道水への塩素消毒が正式に義務づけられたのは、もっと後です。
1957年(昭和32年)に水道法が制定され、水道水への塩素消毒が正式に義務づけられました。
これによって、水道に起因する消化器系伝染病発症は全国的に激減したそうです。
ちなみに、塩素消毒の背景には、戦争が関係しています。
第2次世界大戦によって、水道施設が爆破され、漏水が大量発生しました。
終戦後、GHQ(連合軍総司令部)が、伝染病発生の危険防止策として主要都市に対し塩素消毒を徹底して行うよう指令を出したそうです。
薬品4 活性炭
活性炭の注入は必須ではありません。
緊急的に注入する場合があります。
薬品の凝集剤は濁りを除去するためのものですが、一部の金属類なども一緒に除去できます。
でも、凝集剤は基本的に濁りの除去が目的のため、「不快な臭い」の除去は期待できません。
そこで、粉末活性炭というものが緊急的に注入される場合があります。
実は、この粉末活性炭。
浄水場で使用する薬品の中では、一番価格が高く、驚くほどに最も費用がかかります。
また、10トン以上で消防法の指定可燃物扱いとなります。
活性炭を注入する場合は以下のような場合です
<浄水場原水が濁った場合>
川の水が浄水場へ入ったものが「原水」と呼ばれています。
高濁の場合には、凝集剤で処理しても除去できない不快な臭いが水道水へ着臭する場合が多くあります。
その際には、粉末活性炭などを注入して、異臭の除去を行います。
<油類が混入した場合>
油も不快な臭いの代表ですので、水源の事故などで油などが混入する場合にも、粉末活性炭などを注入して、異臭の除去を行います。
<有害物質の混入時>
粉末活性炭の構造は、微細な孔(あな)が多数空いたものとなっています。
特殊な顕微鏡(電子顕微鏡)などでその構造を観察することができます。
微細孔で様々な物質を吸着することができます。
吸着することで有害な物質が家庭に配る水道水中への有害物質を除去することができます。
嘘の情報2
・農薬の基準値が緩和で水道水が危険?
まず、「基準値」という言葉を使っている情報元は注意が必要です。
ホスチアゼートも含め、農薬は「農薬類」として「水質管理目標設定項目」に分類されます。
農薬類の「目標値」は、「検出値と目標値の比の和として、1以下」となっています。
基準値は、水質基準項目で設定されているものに対して使われます。
水質管理目標設定項目の場合は、「目標値」というものが使用されます。
水質管理目標設定項目とは?
水道水中での検出の可能性があるなど、水質管理上留意すべき項目です。
現在まで水道水中では水質基準とする必要があるような濃度で検出いない項目で、水質基準は定めていないが、今後、水道水中で検出される可能性があるものや、水質基準に含まれるが、より質の高い水道水を目指すため必要なものなど、水質管理上留意すべき項目です。
将来にわたり水道水の安全性の確保等に万全を期す見地から定めてあります。
データの蓄積の目的もあると思います。
ホスチアゼートの目標値が緩和で危険?
・内閣府食品安全委員会による食品健康影響評価の結果に基づき、「ホスチアゼート」の目標値を、現行の「0.003mg/L」から「0.005mg/L」に改める。
適用期日
適用期日:令和4年4月1日
有機リン酸アミド系殺虫剤である「ホスチアゼート」
・体内での代謝
・急性毒性試験
・急性神経毒性試験
・90 日間亜急性神経毒性試験
・慢性毒性試験及び発がん性試験
・遺伝毒性試験
・土壌中運命試験(ホスチアゼートの推定半減期など)
・水中光分解試験
・土壌残留試験
・食品健康影響評価
などが内閣府食品安全委員会による食品健康影響評価の結果等に基づき行われました。
その結果を受けて、水道水への目標値も緩和されたものと推察されます。
農薬の健康影響
農薬の健康影響といっても、一概には評価が難しいところです。
農薬はものすごく種類が多く、その特性も様々です。
・体への毒性の強さ
・水への溶けやすさ
・生物濃縮性(蓄積性)
など
体への毒性の強さ
毒性評価では以下のものが使用されます。
耐容一日摂取量(TDI)
許容一日摂取量(ADI)
無毒性量(NOAEL)
最小毒性量(LOAEL)
TDIは、食品や飲料水に含まれるその物質を一生涯にわたって摂取しても、明らかな健康影響が認められない量に安全マージンを加えた推定値であり、体重当たり(体重1キログラム当たりのミリグラムまたはマイクログラム)として表される。
許容一日摂取量(ADI)は、技術上の目的のため、または農作物保護の理由により、食品添加物や食品中の残留農薬について定められているものである。飲料水中の、意図された機能を通常持たない化学汚染物質については、許容性よりむしろ受容性を示すという意味で、用語としては「許容一日摂取量」ではなく「耐容一日摂取量」の方がより適切である。
水質基準値の求め方の例(TDI)を用いた方法とは?
毒性研究を評価してTDI(耐容一日摂取量)という値を算出し、そこから基準値を決定します。
TDI (Tolerable Daily Intake)とは?
耐容一日摂取量
「1日当たりの量までなら、一生涯ずっと摂取しても健康を害しない」と判断される量を計算し、さらに体質の個人差や実験の誤差を考慮して修正を加えた値。
水道水、食事、呼吸など、人の体に入る全てのケースを考慮した値です。
TDI
Tolerable Daily Intake(耐容一日摂取量):ヒトが摂取しても健康に影響がない、汚染物質の一日あたりの摂取量。
簡単にいうと、水道水以外による寄与も含めて安全性を考慮した毒性評価です。
わかりやすく言うと「水道水中におけるこの農薬の値であれば、体への健康影響がない※」
※研究データの知見などで変わる場合もあります。
食事による農薬摂取や大気からの被ばくなども毒性に影響します。
緩和されたから不安?
恐らく多くの方が「わざわざ緩和しなくても良いのでは?」と思っているのではないでしょうか?
ホスチアゼートの水道水中における分析方法(水質管理目標設定項目の検査方法)は、「固相抽出―GC―MS法」または、「LC―MS法」となっています。
LC-MS分析法(液体クロマトグラフィー質量分析法)
GC-MS分析(ガスクロマトグラフィー質量分析法)
高感度な分析方法ですので、目標値のかなり低い値でも定量することができます。
水質管理目標設定項目の検査方法の目標15農薬類では以下のように記載されています。
表1に掲げる農薬ごとに、それぞれ同表に定める方法による。ただし、表1の検査方法に参考と付した方法については、目標値の 100 分の1の定量下限を満たさない、あるいは真度、精度を確保できない可能性が高い方法である。
水道局にもよりますが、仮に「ホスチアゼート」が0.005mg/Lよりもかなり低い濃度で検出された場合でも、その原因調査(汚染源調査や防止措置)、浄水場での活性炭処理などが行われることが想定されます。
逆に厳しくなった農薬も!
農薬類の「目標値」は、「検出値と目標値の比の和として、1以下」となっています。
今回の改正では、以下のようになっています。
(2)厚生労働科学研究の成果に基づき、要検討農薬類である「イプフェンカルバゾン」を対象農薬リスト掲載農薬類へ分類を変更し、目標値を「0.002mg/L」とする。
要検討項目とは?
毒性評価が定まらないことや、浄水中の存在量が不明等の理由から水質基準項目、水質管理目標設定項目に分類できない項目です。
要検討項目を測定するのは任意
要検討項目の測定については、測定するかしないかは自由です。
そのため、水道局では測定していない場合もあります。
令和3年4月1日適用の農薬類(水質管理目標設定項目 15 )の対象農薬リストでは、対象農薬リスト掲載農薬類には、「イプフェンカルバゾン」がリストになかったのですが、令和4年4月1日から対象農薬リスト掲載農薬類へ分類を変更することとなりそうです。
わかりやすく言うと、「イプフェンカルバゾンについては厳しくなった」と言えるかもしれません。
これは農薬類に限ったことではありません。
新たな知見が得られた場合には、順次改正が行われます。
・水質基準項目の基準値の見直し
・水質管理目標設定項目、要検討項目の見直しや格上げ
ただし絶対安心はない!
どんなものでも絶対に安全、安心、万全というものはないと思います。
また、化学物質過敏症などの方にとっては、ごく微量でも有害な濃度の場合がありますし、水道水以外が原因の場合も想定されます。
その点だけをご注意ください。
ただし、不用意に「水道水が危険になる!」といった情報には注意が必要かと思います。
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