小児がんとトリハロメタン
塩素消毒は日本固有のもの
塩素による水道水の消毒は、当たり前のものと考えられがちですが、実は日本特有のものというのをご存知でしょうか?
細菌による健康リスク低減のために、日本では次亜塩素酸ナトリウム(塩素の元となる薬剤)を添加しています。
しかし、欧米諸国のうち残留塩素の保持を義務として掲げているのは一部の国で、消毒すら義務づけていない場合もかなりあります。
日本でも、細菌検査は、「一般細菌」「大腸菌」「従属栄養細菌」「ウェルシュ菌」と手厚く検査を実施しています。
従属栄養細菌に関しては、管内の汚染の把握をとらえるという意味合いもありますが、水質基準には未だ入っていなくて、水質管理目標設定項目に位置付けられています。
従属栄養細菌の検査の歴史は浅く、十分なデータが集まった際に検討されて、水質基準項目に格上げされるかもしれません。
塩素消毒によって生じる消毒副生成物による健康影響は、例えばクロロホルムの場合、発がん性がありませが、食生活も発がん性の要因となるため、水道が原因とは断定できない面があります。
大きな自治体では、消毒剤を極力減らす方法がとられている場合がありますが、やはり導入コストや維持費がかかります。
さらに、今後民営化された場合にどのようになるのかわかりません。
営利目的であれば、消毒剤を多く使った方が簡単なので、そちらにシフトしてしまうのか懸念されます。
トリハロメタンは水質基準値以内でも子供には危険?
トリハロメタンの一つのクロロホルムという物質は、浄水過程で、水中のフミン質等の有機物質と消毒剤の塩素が反応して生成されるトリハロメタンの主要構成物質です。
水質基準値は0.06mg/L以下と規定されています。
今回はこの水質基準値が子供にも妥当かどうか検証してみました。
クロロホルム
トリハロメタンのうちクロロホルムおよびブロモジクロロメタンについてはIARC(国際がん研究機関)においてGroup 2B(発癌性があるかもしれない物質)として勧告されています。
水質基準値の算出方法
水質基準値の算出方法について、ご紹介します。
評価値の算出
評価値の算定に当たっては、WHO 等が飲料水の水質基準設定に当たって広く採用している方法を基本とし、食物、空気等他の暴露源からの寄与を考慮しつつ、生涯にわたる連続的な摂取をしても人の健康に影響が生じない水準を基として設定しています。
具体的には、閾値があると考えられる物質については、基本的には次のような設定が設けられています。
・1 日に飲用する水の量を2L
・人の平均体重を50kg(WHO では60kg)
・水道水由来の暴露割合として、TDI の10%(消毒副生成物は20%)を割り当てとする条件の下で、対象物質の1 日暴露量がTDI を超えないように評価値を算出しています。
※クロロホルムは消毒副生成物
それでは、実際にクロロホルムの水質基準値の算出をしてみます。
評価値(クロロホルム)
TDIは、LOAEL:15 mg/kg/dayに週6日投与による補正を行い、不確実係数:1000(個体差と種間差それぞれに10、LOAELの使用による係数10)を適用し、12.9μg/kg/dayと求められます。
TDIというものは?
Tolerable Daily Intake(耐容一日摂取量):ヒトが摂取しても健康に影響がない、汚染物質の一日あたりの摂取量。
クロロホルムの水質基準値
クロロホルムの水質基準値の算出式=12.9×50/2×0.2=64.5μg/L=0.064mg/L≒0.06mg/L
①12.9はクロロホルムのTDI
②50は50kgの人の体重(日本の水質基準は体重50kgをもとに算出される)
③2は1日に飲用する水の量:2L(日本の水質基準は2Lをもとに算出される)
④0.2はTDIに対する飲料水の寄与率:20%=0.2(クロロホルムは消毒副生成物なので20%)
(参考)
単位μg(マイクログラム)はmgの1000分の1、mgはgの1000分の1
つまり、1000μg=1mg、1μg=0.001mg
以上で、クロロホルムの水質基準値が0.06mg/Lと求まりました。
水質基準値が子どもにも安全な値であるかの検証
ここで、新たな見解として、大人以外の子供にもこのクロロホルムの水質基準値の0.06mg/Lが妥当なのか検証してみました。
なぜかというと、子供は体重が軽いため、クロロホルムの悪影響を受けやすいと考えたからです。
前提条件
・小児1歳(平均体重9kg)→1日に飲用する水の量120ml×体重
・6歳(平均体重20kg)→1日に飲用する水の量90ml×体重
小児1歳(平均体重9kg)の場合
条件
①体重9kg
②1日に飲用する水の量:120×9=1080 ml=1.080L
検証
クロロホルムの水質基準値の算出式=12.9×9/1.080×0.2=21.5μg/L=0.0215mg/L≒0.02mg/L
結果
小児1歳(平均体重9kg)の場合では、0.02mg/L以上では発ガン性の可能性が懸念されます。
例えば、水道水中のクロロホルムの値が0.04mg/Lの場合には、成人では水質基準を満たしていても、それは成人(体重50kg)に対して満たしているのであって、小児1歳(平均体重9kg)の場合では、その悪影響が出る数値は0.02mg/L以上なので発ガン性の可能性が否定できません。
6歳(平均体重20kg)の場合
条件
①体重20kg
②1日に飲用する水の量:90×20=1800 ml=1.8L
検証
クロロホルムの水質基準値の算出式=12.9×20/1.8×0.2=28.6μg/L=0.0286mg/L≒0.03mg/L
結果
6歳(平均体重20kg)の場合では、0.03mg/L以上では発ガン性の可能性が懸念されます。
例えば、水道水中のクロロホルムの値が0.04mg/Lの場合には、成人では水質基準を満たしていても、それは成人(体重50kg)に対して満たしているのであって、6歳(平均体重20kg)の場合では、その悪影響が出る数値は0.03mg/L以上なので発ガン性の可能性が否定できません。
検証結果
このように現在の日本の水道水質基準は、成人に対してのみ、許容される数値ではないかという結論になりました。
読んでいただきありがとうございました。
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