難消化性デキストリン
難消化性デキストリンは上部消化管において消化吸収されずに大腸に到達し、一部が腸内細菌により資化され、このような体内動態の特徴によりさまざまな生理機能を発揮します。
近年では、腸内細菌叢や代謝産物の変化が疾病や健康状態に影響を与えることが報告され注目されています。
難消化性デキストリンもこれまで研究が進められてきた食後血糖上昇抑制作用や継続摂取による内臓脂肪低減作用など上部消化管における栄養素の吸収遅延による機能だけでなく、下部消化管における腸内細菌叢や代謝産物の変化による影響についても検討が進められていて、ミネラル吸収促進作用、耐糖能改善に関与する消化管ホルモンであるGLP-1の分泌促進作用や食欲抑制なども報告されています。
さらに、最新の研究では腸管免疫応答の亢進作用など新たな分野についても研究が進められています。
難消化性デキストリンは水への溶解度が高く、低粘度、低甘味、低カロリーであり、加工食品に利用しやすい食品素材です。
そのため多くの飲料や食品に配合されています。
また、さまざまな生理機能を有し、安全性も評価されていることから特定保健用食品や機能性表示食品の関与成分としても多く利用されています。
難消化性デキストリン概要
難消化性デキストリン(水溶性食物繊維)には、食事に含まれる脂肪と糖に働き、食後に上がる中性脂肪と血糖値を抑える機能があります。
脂肪や糖の多い食事を摂りがちな方、食後に上がる中性脂肪や血糖値が気になる方に適した成分です。
また、お腹の調子を整えてくれます。
難消化性デキストリンとは、とうもろこしを原料とした水溶性の食物繊維です。
とうもろこしを原料とする、水に溶けやすく、体内で消化されにくい食物繊維です。
消費者庁や米国食品医薬品局(FDA)に安全であると認められた成分です。
難消化性デキストリンには、食事に含まれる脂肪と糖に働き、食後に上がる中性脂肪と血糖値を抑える機能が報告されています。
「おなかの調子を整える食品」として特定保健用食品(トクホ)の関与成分にもなっている食物繊維です。
難消化性デキストリンの吸収及び代謝
難消化性デキストリンは、ヒトの消化酵素によってほとんど加水分解されないため、経口摂取しても上部消化管で消化吸収されず、血糖値およびインスリン分泌に影響を及ぼさないことが報告されています。
上部消化管における消化吸収を免れた難消化性デキストリンは大腸に到達し、その一部が腸内細菌に利用されます。
ヒトにおける試験では腸内細菌の総数が難消化性デキストリンの投与量に依存して増加することが報告されています。
また、腸内細菌によって利用されないものは、便中に排泄されます。
難消化性デキストリンの生理機能及び作用機序
難消化性デキストリンにはさまざまな生理機能が確認されていて、その機能として整腸作用、血糖値上昇抑制作用、中性脂肪上昇抑制作用、内臓脂肪低減作用、ミネラル吸収促進作用などが挙げられます。
整腸作用
これまでに難消化性デキストリン3~8gを含有するゼリーなどさまざまな食品を用い、整腸作用についてのヒト試験が多数実施されています。
いずれの試験においても排便量および排便回数の増加が報告されています。
さらに新たな知見として難消化性デキストリンの摂取が腸内容物の大腸通過時間を短縮させることが報告されています。
摂取した難消化性デキストリンの一部は腸内細菌によって利用され短鎖脂肪酸が生成されます。
短鎖脂肪酸は腸のぜん動運動を刺激するため、難消化性デキストリンの摂取により排便が促進されます。
また、腸内細菌によって利用されない部分は、そのまま便中に排泄されるため便量の増加に寄与します。
このように腸のぜん動運動を刺激し便量を増加させることのより、大腸通過時間の短縮や排便回数および排便量の増加が認められたと考察されています。
食後の血糖値上昇抑制作用
水溶性食物繊維は糖質と同時に摂取した際に、食後血糖上昇抑制効果を示すことが報告されています。
難消化性デキストリンも同様の効果が確認されていて、例えばうどん定食と同時に難消化性デキストリン5g配合飲料を摂取した際に、難消化性デキストリン非摂取群と比較して食後の血糖値が有意な低値を示すことが確認されています。
一般に、水溶性食物繊維の食後血糖上昇抑制効果は、消化管内でゲルを形成することによる胃内滞留時間の延長や、栄養素の拡散阻害などによるものと言われています。
しかし、難消化性デキストリンは水に溶解させても粘度がほとんど変わらず、ゲルを形成しません。
さらに、糖負荷試験において二糖類から多糖類に対して作用を示すことから、これまで考えられてきた水溶性食物繊維の作用機序とは異なる可能性が示唆されています。
難消化性デキストリンは食事に含まれる糖質の消化・吸収速度を遅延させ、その主要な消化・吸収部位を回腸まで含めた広い領域に移行させることによって食後の血糖上昇を抑制すると考えられています。
食後の中性脂肪上昇抑制作用
難消化性デキストリンを食事と共に摂取すると、食後中性脂肪の上昇が穏やかになることが報告されています。
ヒトにおける試験では、脂肪を多く含む食事と共に難消化性デキストリン5g配合飲料あるいはプラセボ飲料を摂取させた際に、難消化性デキストリン摂取群で食後中性脂肪の上昇が有意に抑制されました。
食事に含まれる脂質はリパーゼによってモノグリセリドと脂肪酸に分解され、それらがミセルを形成して消化管内を移動します。
その後、そのミセルが崩壊し、モノグリセリドや脂肪酸が放出されて小腸において吸収されます。
難消化性デキストリンは、ミセル表面を覆うように存在することで、モノグリセリドと脂肪酸がミセルに溶解するのを防ぎ、さらにミセルからの放出を抑制することが試験によって示されています。
また、動物実験及びヒト試験において、難消化性デキストリンの摂取により便中への脂肪排泄量が増加することが確認されています。
これらの結果から、難消化性デキストリンの食後中性脂肪の上昇抑制の作用機序は、上部消化管における脂肪の吸収を抑制し、便中への排泄を促進する
ことによるものであると考えられています。
内臓脂肪低減作用
食事を摂取すると、血糖、インスリン、中性脂肪は一時的に上昇しますが、これらの急激な上昇が肥満や高脂血症につながることが周知の事実となっています。
食後血糖のコントロールが体脂肪低減に有用であることが大規模な調査で証明されていて、食事のグリセリック・インデックス(GI)及びグリセリック・ロード(GL)が低いほどBMIや空腹時の血糖値、中性脂肪値が低いことが明らかになっています。
また、インスリンは血液中のグルコースの細胞内への取り込みを促進し、中性脂肪として蓄積させるとともに、脂肪組織血管内壁に存在するリポ蛋白質リパーゼ活性を亢進させ、血中中性脂肪を細胞内に積極的に取り入れることによっても脂肪合成を亢進させます。
さらに、インスリンは肝臓における脂肪合成も促進させるため、インスリンの過剰な分泌は高脂血症や肥満を誘発します。
これらのことから食後の血糖およびインスリンの上昇を抑制することは脂肪組織あるいは肝臓における脂肪合成を抑制し、食後の中性脂肪およびインスリンの上昇を抑制することは脂肪組織への中性脂肪蓄積を抑制するといえます。
そのため食後の血糖、インスリン、中性脂肪の上昇を抑制することは内臓脂肪の低減に極めて有用です。
難消化性デキストリンは食後の血糖やインスリンの過剰な上昇を抑制し、耐糖能を改善することによって脂肪合成を抑制し、体脂肪および空腹時の中性脂肪値を低下させることが、ヒト試験において確認されています。
また、難消化性デキストリンは脂質の消化吸収を遅延および抑制するため、高脂質食と同時に摂取すると、食後中性脂肪のみならずインスリンの上昇も抑制することが報告されています。
このように脂肪蓄積抑制の作用機序は、難消化性デキストリンの連続摂取により、耐糖能改善による内因性の脂肪合成の抑制および食事由来の外因性脂肪の吸収を遅延・抑制する作用によるものです。
実際に難消化性デキストリン9gを含む茶飲料を1日3回、3ヶ月間食事の際に継続摂取させた試験において内臓脂肪が有意に減少することが報告されています。
※耐糖能
血糖値が、常に一定範囲内に収まるように調節する能力のことです。
ミネラルの吸収促進作用
これまで食物繊維はミネラル吸収に悪影響を及ぼすと考えられてきました。
しかしこれは、ある種の食物繊維に含まれるフィチン酸によるミネラルの不溶化や、ペクチンの陽イオン交換能によるミネラル吸着による作用であり、難消化性デキストリンのような水溶性で易発酵性の食物繊維はミネラル吸収を促すことが報告されています。
ヒトのおける試験では、難消化性デキストリンの継続摂取により貧血の指標である赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット値の有意な改善が認められています。
また、カルシウム吸収の指標とされる尿中カルシウム排泄量は有意に増加し、カルシウム吸収率が上昇することが報告されています。
難消化性デキストリンが腸内細菌の資化を受けた結果、短鎖脂肪酸が産生され腸内pHが低下したことでミネラルが可溶化し、さらに短鎖脂肪酸の影響によりミネラル吸収が促進されたことが示唆されています。
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